マイケル・ジャクソン 「This is it」





この映画を観た人生と観ていない人生は、まったく異なるものになると思う。






昨年6月に没し全世界の音楽愛する人たちに見送られたマイケル・ジャクソン
7月に行われる50公演もの予定で行われるはずだった
ライブ「This is it」のリハーサル・メイキングムービー。
もはや説明不要かな。



舞台監督であったケニー・オルテガが監督を務め、
見事なまでにマイケルのそのエンターテイナーとしての姿勢、
また仕事に対する究極なまでのこだわりを描いており、
僕個人は「この映画を観ない人生はありえない」とまで思っている。



マイケルジャクソンといえば誰もが知るアーティストとして数年も数十年も前から親しまれていたと思うが、それでも純粋なファン以外からは「なんかスゴいらしいゴシップだらけのシンガー」という認知に過ぎなかったはず。特に2005年の性的虐待裁判の際にはマイナスイメージばかりが取りざたされていたし、僕も残念ながら同レベルの認識でいて、彼の音楽を聞き流したことはもちろんあったにも関わらず、音楽はどこまでいっても音楽であって、些細な影響こそあれど「キング・オブ・ポップ」などと持て囃されている人間が他人の人生衝撃を与えるなんてちゃんちゃらおかしい、と思っていた。


だが、この映画を観て本物のエンターテイナーとは如何なるものか、
史上最高の「Artist」の真髄を知ることになる。



今回予定されていた「This is it」は10年ぶりの復活ということもあり、
世界中のあらゆるトップの才能をまったく惜しげもなく集められた、文字通り世界一のライブになるはずだった。


ここの考え方で感嘆させられたのは、とにかく「最高のスタッフを集める」ということに注力していたこと。
つまり、本来ライブを成功させるというミッションの中には、予算であったり、時間であったり、人出(あるいは人脈)であったりの問題があり、結果的には「出来る範囲で最高のパフォーマンスを魅せる」というところに収束していくと思うのだけれど、この公演に関してはとかく「最高の人材を、最高のタイミングで、最高の環境で」という限りなく絶対的な視点で構築していく。世界最高レベルのアーティストならではの舞台だ。
そしてそのスタッフ全員がそれぞれの役割を主観的に最高のパフォーマンスをするのはもちろんのこと、客観的にも自分の立ち位置を把握しており、主役であるマイケルに対する尊敬の意を抱き、心から楽しんで仕事しているのがわかる。これ以上なく素晴らしい環境だ。


そしてそんな最高のスタッフが最高の舞台を作り上げるためには、一滴の妥協も許されない。


マイケルが持っているイメージを作り上げるには、それこそマイケル本人の表現力にもかかっている。
如何にしてスタッフの自分のイメージを伝えるか。またそれを再現するに値する能力を持っているのか、実現できるのか。
映画には出せなかった厳しい場面も無数にあっただろう。それこそ衝突して去って行ったスタッフもいるかもしれない。
だが、だからこそ、言い訳のかけらもない最高の舞台が出来ていくのだろう。






この舞台が公開されることなく終わってしまったのは、非常に残念だと思う。
だけど、マイケルジャクソンという人間が世界に対してどのように表現を発していったのかを
多くの人に伝えるには、こういう結果になってもしかしたら良かったのかもしれない。





昨年6月の日記に、「マイケルジャクソンが死んでも、世界は変わらなかった」と僕は書いた。






世界は変わらなかったけれども、きっと世界は彼を忘れない。
僕は、マイケルジャクソンという人間と同じ時代に生きていられたことを誇りに思う。






音楽が好き、嫌い、とか、
映画を観るのが時間がない、とか、そういうんじゃなくて。









この映画は、人間であれば一度は観るべきなんだ。