でんしゃマナー。




つうか捨てろよ。







電車で席に座るのにはちょっとしたコツがあって、
そのコツを得たサラリーマン同士の間でイス取りをする場合
先に配置についたほうの勝利となり、当然それは暗黙の了解として処されている




のに、




空気の読めないオバサンなんかがちゃっかり座りやがりなんかしたらそれはもう舌打ちのひとつやふたつしたくもなります。どう考えても今回はこのお父さん(推定42歳、中間管理職)が座るべきタイミング。読み違えて負けてしまった僕はともかく、今の優先順位でいっても彼女の出番は大塚じゃなくて大量に降りる上野あたりです。あげく買いたての朝マックなんぞ持ち込んでるもんだから満員とまではいかないまでも通勤時のそこそこ混んでる山手線の中でマック・グリドルの芳しい香りがぷんぷんと漂い、その甘い匂いはただただ乗客たちをちょいちょいイラっとさせるのでした。




匂うなあ……。



本来彼女はそのマックの袋を抱えているべきなのですが、何故かマック・グリドルとコーヒー(推定・L)を内包したビニールはその足元に鎮座しており、即ち誰かの足に触れればたちまちコーヒーは飛び出しグリドルは崩れ中の世界は崩壊し本当の意味での「説明できない朝ゴハン」になってしまうためたちまち走る緊張感。その場面で誰か(もしくは僕)が彼女に「危ないのでビニール袋を抱えてくれないだろうか」と言えば問題はないのですけれども、僕と彼女の間には人間二人ほどの間隔があったためわざわざ僕が言うのもなんだしなあ、これでこぼれても被害を受けるのは僕ではないし、目の前にいるあの機嫌悪そうなお姉さん(推定28歳、昨夜彼氏の携帯に知らない女からの着信があったため徹夜で喧嘩)が一言いえば解決するではないか、ほったらかしにしようそうしようと思ったため僕は黙ってDEPAPEPEのアルバムを聴いていたのでした。アコースティックっていいなあ。





まあ当然そのお姉さんも特に発言することもなく。





人もどんどん混んでゆき、いよいよオバサンの姿も見えなくなります。無論足元のビニール袋もサラリーマンたちの足に隠れ、完全に見えなくなってしまいました。そのまま電車は上野、御徒町と順調に走り続けます。
新橋に到着し、どやどやと降りてゆくサラリーマンたち。霧が晴れたように電車内の視界は開け、席もぽつぽつと空いていきます。やれ満員電車からやっとこ開放されると僕も安堵し降りようとし、ふと先ほどの席に目をやると、いつの間にやらオバサンは下車していたようです。席はぽっかりと空いていました。










ただし足元にはどす黒い液体がなみなみと満ち、
いくつか異物の浮いているビニール袋が悲しげにひとつ。








……。














やっぱダメだったんだ…。