ひょっとして、すげえ人と会ってたのかもしれない。





深夜のバイトで新橋に行ってたわけですが、仕事自体は3時間で終わったのです。
そんでトラックの運ちゃん曰く「オマエら家どこ?」と。
4人いた中で僕だけ営業所に近かったので、せっかくなので乗せてってもらうことに。


23時40分、トラックの中でウーロン茶を飲んでいる僕がいました。



「学生?」
「ええ、そうです」



兄ちゃんはポケットを探ると「タバコないか」と一声。あ今日は持ってないんです、と答えると彼はシケモクに火をつけました。
僕は就職活動中だと告げると、兄ちゃんはいいなぁいいなぁと繰り返しました。


「22歳つったらアレだろ、なんでもできる年だろ」
「ッスね。とりあえず目に写るもんはなんでも吸収しよーかなと。今しか出来ないし」
「なんかこれ以外にバイトやってんの?」


答えると、兄ちゃんはイベントディレクターに興味を持った様子。
色々と聞いてきました。
こちらも相手の身の上を聞くことに。




彼は僕くらいのころ、吉本の芸人だったそうです。
吉本の第2期だとかなんとか(第1期は品川庄司)の主席で卒業をしたらしいんですが、
デビュー間近で子供できちゃった。
こりゃあ芸人やってられないってことで家具の職人になり、そこの待遇の悪さに嫌気がさしてトラックドライバーになったんだそうです。
苦労も多かったでしょうね。



「まぁ、それでも楽しかったよ。ガキできたのはある意味失敗だったけど、転機ではあったかもしれない」
「てことはアレすか、今ごろ品川の代わりに出てたかも」
「しれない」
「うおーマジか…」



「とにかくな、今のうちに出来ることは失敗でもなんでもいいからやっとけ。22歳なんてまだまだなんだから、今のうちに恥ずかしい失敗たくさんやって経験積んどくのがいいさ。今やってるイベントだって学生最後のなんだろ? なんのだか知らないけど、それでも死ぬ気でやればきっと満足するって」



言葉で言って聞くのは簡単。
実現するのは難しい。




「じゃあな、お疲れ。また頼むな」




寝静まった街道を歩き、僕はタバコを買って火をつけました。






もうあとには引けません。やるしかないのです。
よし、とりあえず明日に備えて寝よう。