戯言
始めて知ったときは「ふーん」と思った。
企業として正しい判断だ、仕方ないことだと思った。
他の予定も入ってたし、ちょうど良かったな、とも思った。
楽しいことは別に山ほどある。
そうだ、僕は音楽が好きなんだ。
その日は幼馴染のひさびさのライブがある。
終わってから行こうと思ったけど、これなら疲れず会いにいけるじゃないか。
予定なんて入れようと思えばいくらでも入れられるしな。
楽しいことなんて別にいくらでもある。
服買うのも好きだし、最近はワインもはまってる。
バンドのツアーも制覇したいし、自分自身のスキルも磨きたい。
仕事に追われ、難題を抱え、
自分に家族に恋人に、目を向けなきゃいけないものもある。
むしろ、ちょうどいいじゃないか、と思えた。
やめよう、やめよう、やめてしまおう。
ポケモンなんて、やめてしまおう。
ニュースを見た。
掲示板を見た。
ブログも見た。
致し方ない、しょうがないものだとかぶりを振り、
椅子に沈み込んだそのときなんだが、
なんか一滴だけ涙が出た。
あれー? どうしたんだろ。
大会そんなに行きたかったわけじゃないしなー。
眠れないほど試合を楽しみにしてたわけじゃないしなー。
そりゃ友達と調整まがいのこともしたけど、人生かけてたわけじゃないしなー。
で、ちょっと考えた。
あ、わかった。
ぼくが、
きみが、
みんなが、
今まで愛してきたものを、汚されたのが悔しかったんだ。
それが過去形も過去完了形でも変わらない。
数年をともに過ごし、
それで得たものは何物にも換えがたいものだったはずだ。
僕の場合は、
友達かもしれない。
恋人かもしれない。
イベント業界に足を踏み入れたそのきっかけかもしれない。
人との接し方かもしれない。
物の整理の仕方かもしれない。
時間の使い方かもしれない。
工夫のやり方だったかもしれない。
それを誰かに汚されたんだ。
わかった。ぼくは、くやしいんだ。許せないんだ。
たくさんの人の思い出になるはずだったものを、
たった一枚の紙切れごときに潰されたんだ。
ぼくが10年前に感じたことを、この春、はじめて受け止める子がいたはずだ。
ぼくは、もういい。
その子は、どうなる?
理屈じゃないんだ。
誰が悪い、とかじゃないんだ。
時間をかけて作った砂のお城に、ボールを落とされ崩された気持ち。
わかるか。
この気持ちだ。
この涙は、きっとその気持ちだ。
悔しい。
くそったれ。
ああ、畜生!
いいか。
これがもう大人になっちまった僕の正直な気持ちだ。
これを読んでるきみがどう思うかは知らないが、
何かを受け止めてくれたら、それで僕は充分だ。
祈る人は祈るといいだろう。
立ち上がる奴は立ち上がればいい。
腐りたければ腐るも重畳、
見守るのだって大事な役目だ。
さぁ、ここで試されてるのは企業の姿勢だけじゃない。
きみたち本人も、存続するかしないかという意味では試されてるんだ。
僕はおそらく何もしないだろう。
残念ながら、割く余力がもうない。
さて、どうしようか。