isigami2005-11-24





「元気でな」ってのも、おかしいか。







葬式の設営だとかもだいぶ慣れていて、とかく木製の中に電球だのが入っているものをばんばか運んでがちがちとハメていくのですが、一応礼節は大事にしなければいけない場所なので、自然とそーっと置きがち。
そんな今日のバイト現場は戸田葬儀場だったのですが、まぁ上記のとおりさくっと終了。


帰り道がわからなくなったので、葬儀場の人に帰り道を聞くと、近くに土手があるからそこを上ってあーだーこーだ行くと帰れるよ、とのこと。なるほどそれならはとっとと帰ろうと思い、てとてとと葬儀場をあとにしたのでした。





土手というのはいいものです。
まず上るときに目に入るのはいっぱいに広がる空。
上りきったときに見えるは永遠に続くかのような長く広い道。どこまでも広がる川。
空は赤く、青くうっすらと雲がかかり、空気がたゆたゆと流れていきます。
土手の向こう側では少年たちがバイクで走り、老人たちはゆっくりと歩いていました。
夕方の土手というのは世界で一番平和なのではないかと思ってしまうほど。や、いいものです。





そんな土手の道をてくてくと歩いていると、後方から一匹の犬が走ってきました。
その黒い犬は耳も千切れていて、毛並みはぼろぼろ。
犬のわきから年配の女性が見え、僕はてっきりその犬の飼い主かと思ったんですが、どうやらそうではないらしく。
犬は僕と一緒のスピードで歩きはじめました。



……困ったなぁ。



ついてこられても困るのですが、それでも旅は道連れってわけじゃないですけども共に歩くことにしました。
冷たい風が頬を伝っていく感触を鬱陶しく感じながらも一歩一歩進んでいると、僕は犬がこちらの顔をちらちらと見ているのに気づきました。
どうやら彼は今僕がかじっているシューロールが欲しいのだそうで。
仕方ねぇなやるよと少しちぎり、犬のほうを見やると、





犬はいなくなっていました。





あれ、と周りを見るもどこは土手。
前後はもちろんのこと、土手の下も左右ともに確認できるため、発見できないはずもないのに。
犬は煙のようにいなくなっていました。
なんだせっかくあげようと思ったのに。
僕はちぎったシューロールをぱくりと口に放り込むと、再び歩き出しました。さ、早く帰ろう。









暗くなった土手の脇には、点灯しだした「ペット葬送場」の看板。
そーであろうとなかろうと、また会いたいな。